羊文学の "歌詞"は凄い!

○羊文学の歌詞を聴いて「これは・・・やばい!」って思えるようになったのは、おそらく自分が短歌を作り始めてから。

(画像 参照元羊文学に18問18答「10年後もバンドを続けられていたらいいな」【オリジナルインタビューvol.2】 | with digital(講談社)

○これ、短歌の話だよね?ってなった曲がある。

言葉よ どうか いつもそばにあり これからの奇跡に全部 形を与えてください (『マヨイガ』)

youtu.be

○僕が 短歌を作っていて感じる一番の喜びは、出来事を ぱっと形にできること。いつか消えてしまうんじゃないかと怖くなる、そんな忘れたくない思い出を 短歌にすれば、未熟でも  一応"作品"として残せるから、いつでも振り返ることができる。存在できる。(あきらかに、自分は〈人生-人生派〉の歌人。)

字が汚いけんだめだってノート見せてくれなかった子がくれたお手紙 (春木滉平)

○瞬間をつかまえて、言葉にして、膨らませたあと 削ったりして、どうにか短歌(定型)というパッケージに収める。削ったぶん、余白が生まれて、そこに 想像や解釈(考察)の余地も できる。短歌は 読み手によって、書いたこと以上のものに進化していく。すごいと思う。だからこそ、作り手も のびのび詠める。

○短歌と同じように、歌詞にも「説明的になりすぎるとよくない」という鉄則が、おそらくあって、だから 羊文学の歌詞からも、いろんなことを考えることができる。

○先に引用した、『マヨイガ』の歌詞にもあった〈奇跡〉について。このキーワードは、他の歌詞にも出てくる。

もしも魔法が使えるのなら、君はどんな奇跡を ここに望むの? (『予感』)

君たちは ありあまる奇跡を駆け抜けて 今をゆく (『光るとき』)

○何兆分の1の確率の中で 生まれてきたこと自体が奇跡だし、人と人が出会うのだって、奇跡と言っていいはず。

○出会いのためには、それまでに積み上げられた過去が、必ず存在している。あらゆる選択が伏線になっていて、そのたびに別のパラレルワールドが発現していて・・・・・・ みたいなことを、最近ずっと考えている。これにも短歌が大きく影響してる。

いっせいに暮れるパラレルワールドにきみを決断ごと愛してる (山中千瀬)

信号がついさっき青じゃなかったらきっと渡っていた歩道橋 (平出奔)

森見登美彦の『四畳半神話体系』が、土台を育ててくれていた感じもある。あと最近、穂村弘の 次の文章を 読んだことも大きい。

生の一回生、すなわちそのかけがえのなさこそは、ひとりひとりの体験や価値観の違いを超えて存在する唯一のものである。(中略)歌のなかに読者が〈本当のこと〉の輝きをみるとき、その真の光源とは 読み手自身の生のかけがえのなさにほかならない。 (穂村弘『短歌という爆弾』より)

○じゃあ 羊文学に話を戻して、塩塚モエカが、かけがえのない一回きりの人生で"したいこと"って なんだろう?

今日も ここで生きる君とちゃんと話がしたい (『金色』)

慰めてほしいとか わかってほしいとかではないんだけど なぜだろう、あなたと話したかったの (『深呼吸』)

○とにかく対話を求めてる。終わりの予感(不安)は いつもあるけど、限られた、一回きりの人生における時間を、君(あなた)と話すことに使いたい。そして、お互いを お互いの思い出に残しておきたい。生きてるうちに。会えてるうちに。

最終回の その後も 誰かが 君と生きた記憶を語り継ぐでしょう (『光るとき』)

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○他に、羊文学の歌詞で印象的なのは、「跡」や「穴」だ。自分が想像しやすいのは アパートの壁。引っ越しするから、画鋲を抜くと、穴だけ残る。穴をあけた張本人も、画鋲も そこからいなくなる。穴だけ残る。

壁に空けた穴くらいにしか 君の人生を変えてない (『Step』)

秘密のムーン こんにちは! クレーターたくさんだ 天体がぶつかった歴史だよ ムーン ハロー、ムーン (『ハロー、ムーン』)

○そこにあったはずのものが、なくなって「跡」「穴」だけ残る。羊文学の歌における〈作中主体〉は、残された側であることが多い。だからこそ、残された側に何ができるか、それについての苦悩が強く滲んでいる。もういないのに、交わした会話が頭の中で繰り返し、反芻する。

いつの日か君がいなくなって、この穴ぼこに 僕一人と なんかくだらないものを詰めて、埋めなきゃいけない日が来るってことは もうずっと昔からわかっていたから、涙もでない。 (『Blue.2』)

見えないものの声を信じる たとえあなたがもういなくても (『ghost』)

youtu.be

残された側に、何ができるか。考える。でも、残された自分の時間・人生も、有限で、一度きり。だから もう やっぱり、自分も 生きて、書いたり、歌を作ったり、いろんなもの とか 跡を、残していくしかない!そんな決意を 強く感じる。そして、おこがましいけど、すごく共感する。

汚れたコンバースも 落とした財布も 必ず 私の歴史になってく (中略) 私は私で もうすぐ誰かの 歴史になってゆく (『涙の行方』)